メキシコ入り。
首都メキシコシティの住宅街にひっそりある、ルイス・バラガン自邸。
1948年竣工。
1988年に亡くなるまで、後半生を過ごした自邸兼仕事場です。
2004年にはユネスコの世界遺産にも登録されているよう。
通りに対してはそっけない姿。まさかここがバラガン邸とは、といった感じ。
一転、
内部には、写真で何度もみた光景。
光、を感じる。
静止したような空間の数々。
まさに静寂。
各部屋ごとの異なる光によって空間の性格が与えらます。
また、空間の中に絵画的に美しい瞬間がある。
「孤独と一緒にいる時だけ、人は自分自身と向き合える」
とはバラガンの言葉。
一人の時間を大切にし、
生涯独身で、気の許せる限られた人とのみバラガンはこの家で共に過ごしたそう。
バラガンの心を体現する建築。静かな建築。
keep smiling!
奥野 崇
メキシコ入りする前に、アメリカのテキサス州ダラスにて乗り換え。
ほど近くのフォートワースまで足を伸ばして、
1972年のルイス・カーンの仕事キンベル美術館へ。
実はカーンには個人的に思い入れがありまして。
僕が建築を志すきっかけとなった、学生時代の恩師から
当時ルイス・カーンの素晴らしさを聞いておりました。
いくつかの本を読み漁りましたが、
なにしろカーンの言いまわしは詩的で難解。
当時の僕には、理解できていたのか、できていなかったのか。。。
時を経て今ようやく体験する機会を得た、といったところです。
建築自体は特に突飛な形状をしているものではなく、
かまぼこ上の屋根が連続するもの。
一見、古典建築のようでもあります。
頂部にトップライトが設けてあり、
内部側の反射板によって、天井面へ自然光が柔らかく拡散させるのが特徴。
建築の要所にいくつか計画されている中庭。
そろぞれは決して広くないですが、効果的でとてもきれい。
見所がたくさんある建築ですが、
僕はこの建築の特筆すべきは、人の居場所の豊富さ、ではないかと思いました。
建築の一部には、水盤を目の前にすっと置かれた石のベンチがあります。
先の中庭スペースの周辺もそうですが、
展示される芸術や、それぞれの歴史的背景に、
来訪者が物思いにふけるスペースが点在している。
光、という果てしない建築の要素をテーマにしながらも
それを使う人に眼差しが向いているというか。
想いを反芻できる、落ち着きある居場所のつくり込みが行われています。
各部のスケッチ。
ちょうど美術館の展覧会はルイス・カーン特集。
カーンの使用した手帳や画材の展示はもちろん
ドローイングやスケッチの現物掲示も。
カーンのつくる繊細なイメージとは少し異なりましたが
力強く、生命力にみちたものばかり。
keep smiling!
奥野 崇
スリランカでのスケッチ。
現地で描き、色付けしたもの。
忘れたくないその瞬間を描きとめること。
今いるこの空間を俯瞰すること。
バワのつくった空間を体験して思う。
まだ見ぬ特別、があったのだと。
建築のもちうる力はまだまだ奥が深く
こんなにも愉しみにあふれたものなのだ、と改めて思う。
許されるならば、もっともっとおおらかに泳いでみたい。
keep smiling!
奥野 崇
1962年竣工。主としては、バワの初期のパートナーであるウルリック・プレスナーの設計。
スリランカの高原地域として知られるヌワラエリヤやエッラに近いあたり、バンダラウェラにあります。
セイロンティーの中でも代表格のウバ紅茶の産地として知られるあたり。
周辺はのどかで牧歌的な風景。町というよりは、村といった雰囲気。
質素で禁欲的な印象をもちます。
あえて、というよりは、
周辺でとれる限られた建築資材のみでつくられているからかもしれません。
派手さはありませんが、一歩入った瞬間から息をのむよう。
いい建築というのは理屈抜きに心に訴えるものがあります。
祭壇の上部にはトップライト。
石積みの表情をかえることで陰影がつくられます。
一見、開口がないようにみえる石積み壁部分にも通風を得る工夫が。
構造も担うアーチ状の外壁と少しずらして、手すり壁が立ち上がります。
その隙間を風通しのスリットとして利用。反射光はほのかに石積み壁を照らします。
建物の柱を利用した十字架のモチーフがみてとれます。
強烈な植物の力を感じるスリランカですが、建物周辺はなんだか優しく感じます。
小さな村にある、小さな教会。
それは、人々に愛されながら、慎ましくありました。
シンプルな中にも、味わい深い建築はつくることができる。
「たくさん」は、いらないのかもしれません。
にっこり笑うシスターの表情が印象的でした。
keep smiling!
奥野 崇
バワの絶作となったこの建築。ラストハウス。
完成を見ることなく、バワは2003年にこの世をさります。
スリランカの南の沿岸地域、タンガッラの海辺。
現在も小規模なヴィラとして利用されていますが、道路への看板やサインはひとつもありません。
車一台分が精一杯の小道のその先にひっそりと佇みます。知る人ぞ知る、といった感じ。
道路側からは開口がひとつあるだけ。
バワの建築言語のひとつ、潜り込む、がここでも。
規模は違えど、アプローチの仕方はベントタのビーチホテルにとても似ています。
階段を上りきると、薄暗い回廊と、明るいプール付きの中庭。
コの字型に建物は配置され、
道路側とはレベル差によってプライバシーを確保するという上手い処理。
共用部分の開放的なアウトドアリビング
ほどよい光量と、白のインテリアが映えるインナーリビング。
目の前にはインド洋。それでも直接ビーチではないので落ち着きがあります。
確かに、宿泊していたヨーロピアンも年齢層は高めでした。
木漏れ日と重層する外部空間の連なり。
各ゲストルームにも見とれてしまうほどの綺麗な光が。
水回りの魅力はため息がでるほど。
小規模な建築ではあるが、つめこまれたたくさんの魅力的な空間の数々。
バワ自身がその場を歩きながら設計したような建築。
彼の目線の動きを追走してしまう、パーソナルな空間に彼の集大成をみた気がしました。
keep smiling!
奥野 崇
スリランカの中央付近、ダンブッラのほど近く。
かつて農業用水の確保のためにつくられた、人造湖であるカンダラマ湖。
そのほとり。
言わずもがなバワの最も有名な建築のひとつ、カンダラマホテル。
圧倒的な存在感を持つ熱帯植物に、とりこまれることを許容する建築。
自然と一体、などという月並の表現では足らず
自然に飲み込まれるのを待っているようにも思える。
開放的なラウンジや、
ラキ氏による彫刻がシンボリックなレストランへの階段。
昨年に続いての訪問だったからか
ゲストルームをアップグレードしてくださいました。
全体のアウトラインはシンプルながらも
引き戸の処理や、見え方や見える範囲の細々した調整で
豊富な空間体験がつめこまれているのがバワの特徴と思います。
二度目の滞在となった今回。
特に感じたのは、自然の移ろい。
大地の明るさによって、時間流れに気づき
当たり前のように訪れる、1日の終わり。
その濃度により新たな今日の日を知り、
明るい陽の光による、内面からこみあげる喜びに気付く。
圧倒的な自然を前に、建築の印象は薄くなる。
建築はより透明な存在へ。
人の原始的な感覚を取り戻させてくれる、新鮮な体験。
keep smiling!
奥野 崇
昨年に続き、二回目となるスリランカ・バワ建築を巡る旅。
成田から約9時間のフライトを経て、ようやくスリランカのコロンボ空港へ。
現地時間で19時すぎ。気温は27℃。少し汗ばむ。
初日は、空港からも比較的近いネゴンボにあるジェットウイング・ラグーンホテルへ。
1966年竣工。
海水がはいりこみ湖のようになった潟(ラグーン)に面します。
スリランカ初の観光客向けリゾートといわれ、バワ初のホテル建築とされているよう。
老朽化によって一度閉鎖されていたが、2012年に改修工事によってリニューアルオープン。
バワオリジナルが残るのは数少ない箇所のみとなっているが、
その一つであるゲストルーム「バワルーム」に宿泊。
天井の高い伸びやかなワンルーム。
ベッドルームの背が高い空間、というのはあまり経験がなかったけれど、思ったより悪くない。
水回りは屋根がかかってあるが、オープンエアーのドラマティックなつくり。
思わず「うわぁ」と声をあげてしまう。
身も心もリラックスできるスペース。
もちろん実測も行います。
ゲストルームの半分がオープンエアーの水回り。大胆。
幅の広い、あいらしい形の椅子。
いいなあと思った、レストランへのアプローチ部分。
プール脇の通路から潜り込むようにはいっていきます。
見返りの様子。
この形式は韓国の古い寺院建築でみたものに近いなあと感じました。
階段を一段一段あがるたびに視界が開けてきて、なんとも言えない感動があります。
明暗の振れ幅が大きくて、向こう側への期待が高まるというか。
ラグーンに開かれた気持ちの良いレストラン。
100m!あるというプール。
ゲストルームやフォリーで囲まれた、ホテルの真ん中にあります。
バワが好んだプルメリア。
白と黄色のグラデーションが綺麗。
良い天気。
keep smiling!
奥野 崇
ジェフリーバワの建築を巡る、スリランカの旅。
昨年の視察でみられなかった、いくつかの実作をみることができました。
また、建築と、気候や風土・歴史や現地に暮らす人々との関係を肌で感じるのも重要なポイント。
少しずつ、ですがまとめていこうと思います。
keep smiling!
奥野 崇
弾丸ツアーの最後は
韓国における最古の木造建築物のひとつとされている、浮石寺(ふせきじ、プソクサ)。
671年に建立された寺院で、現在の建物は1376年に再建されたと考えられています。
ちょうどソウルと安東の間に位置し、
韓国の仏教は弾圧された歴史をもつため、こうした寺院は山深いところにしか残っていないそう。
屏山書院とおなじように、建物の下に潜り込むようにアプローチしていきます。
階段をのぼって広場にでるたびに、次の建物が見えてくること3回。
そうしたシークエンスの豊かさからか、実際の移動距離以上の体感距離。
めくるめく変化。
ほの暗い床下と明るい広場、その先にみえる次の建物。
建築だけで完結しない、そこにいたるアプローチと自然の豊かさと一体感。
韓国の古建築にみた興味深い部分。
keep smiling!
奥野 崇