季節手帖

揉み出(もみず)

「もみじ」は「揉み出(もみず)」が変化した言葉といわれています。

真水や灰汁に浸して鮮やかな色を揉み出す、紅花染めが由来のもの。

"赤葉"ではなく、"紅葉"という漢字が定着したのも自然な流れだったのかもしれません。

 

 

明治期に編纂された国語辞典の大言海には美しい言説があります。

 

色ハ揉ミテ出スモノ、又、揉ミ出ヅルモノ、

サレバ、露、霜ノタメニ モミイダサルルナリ

 

露や霜に洗われることによって

葉から鮮やかな紅や黄色が揉み出される、と考えたという語釈です。

 

 

古岩屋では、紅葉の終盤とのこと。

ひんやりと澄んだ山の空気。

揉み出された楓の葉色は、純一無雑なものに違いありません。

 

 

 

keep smiling!

奥野 崇

category : 季節手帖 | posted at 2020.11.16

霜降(そうこう)

二十四節気の第十八。

 

朝晩の冷え込みがさらに増し、北国や里山では霜が降りはじめ、

少しずつ、冬の足音が聴こえはじめる頃。

事務所には素敵な新入りさんを迎えました。

日本のバラの代表的な原種である「ノイバラ」の大枝。

別名「野バラ」とも呼び親しまれています。

 

もともと有棘の低木類のバラのことを茨(イバラ)と呼んでいて

野生のものであるから、野茨(ノイバラ)となったもの。

 

 

10月も終わりに近づけば、実もしっかりと赤くなります。

秋が深まるころの愉しみのひとつ。

 

 

 

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奥野 崇

category : 季節手帖 | posted at 2020.10.23

釣瓶落とし

「秋の日は釣瓶落とし」

釣瓶(つるべ)が井戸にストンと落ちていくように

秋の日は、あっという間に日が沈むことを形容して使われます。

 

まだ明るいと思っていたのに、もう真っ暗なんてこともしばしば。

暮れの早さに、はっとしてしまう。。。

 

釣瓶が落ちていく速さには、

まだ心が追いついてないようです。

 

 

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奥野 崇

category : 季節手帖 | posted at 2020.10.18

秋の声

茹だるような暑さの日々も、今は懐かしく感じるほど。

随分と過ごしやすくなってきました。

暑さがおさまってくると、

なんだか空気が澄んで、引き締まったように感じます。

 

秋の気配と共に聴こえてくる物音を、

先人は「秋の声」と呼びました。

それらを「音」としてではなく、

命あるものの「声」として聴いたのです。

 

静かな朝、穏やかな風、揺れる葉先、赤い夕焼け、夜の虫のささやき。

積み重なる小さな変化とその声に、

心を澄まして向かい合ったのでしょう。

 

 

どこかもの寂しい夜の静けさが好きな季節です。

 

 

 

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奥野 崇

category : 季節手帖 | posted at 2020.9.10

行き合いの空

「行き合い」とは、出合いという意味。

空の上では、隣り合う季節が出合い、巡っていきます。

 

特に、夏から秋へ移り変わる空を「行き合いの空」と呼びます。

雲の形や高さ、空の色など、

その変化がわかりやすいため、でしょう。

 

暑く厳しかった夏の終わり。

思い出の数々と、終わりゆく夏へのさみしさ。

しみじみと季節の移ろいを思う情景も込められているように思います。

 

 

天井のステージで繰り広げられる、行き合いのドラマ。

物語は終盤に差し掛かってきたでしょうか。

 

 

 

keep smiling!

奥野 崇

 

 

category : 季節手帖 | posted at 2020.8.26

草熱れ(くさいきれ)

けたたましいほどの蝉の声。

 

今日の松山は35℃。

突き抜ける、ゆらぐほどの暑さ。

現場での作業に勤しむ職人さんには、本当に頭が下がります。

強い陽射しに照らされた

生い茂った草むらの近くでは

むせかえるような熱気を感じることがあります。

これを「草熱れ(くさいきれ)」と呼びます。

 

炎天下では草の表面が

気温よりも5度ほど高くなってしまうそうで、

温度を下げようと、自ら大気中に水分を蒸発させはじめます。

それはまるで人がかく汗のよう。

 

 

厳しい夏空の下、

たとえ物は言わねど、じっと耐え凌んでいるのですね。

 

 

 

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奥野 崇

category : 季節手帖 | posted at 2020.8.9

雲の峰

二十四節気では大暑の頃。

一年の中では、最も暑い時期ということです。

 

今年はといえば稀に見るほど梅雨明けが遅れており、

暦との齟齬を感じるところかもしれません。

今年は変則ながらも、子どもたちは夏休みへ。

夏の思い出の背景には、いつも青い空と入道雲があったような気がします。

 

地上からの強い上昇気流に乗って

ときには高さ15kmにも達する巨大な雲が

夏の強い日差しを受けて白く輝く様は勇壮そのもの。

 

地方によってはこの夏空に沸き立つ雲に

その地方名に「太郎」をつけた名前で呼ぶことも。

・坂東太郎(関東地方)

・信濃太郎(中部・北陸地方)

・丹波太郎(京阪地方)

・比古太郎(九州地方)

名前がつけられるほど、

皆に親しまれ、季節の象徴的な雲だったのですね。

 

 

 

一方俳句では、

入道雲のことを「雲の峰」とよび、夏の季語にもなっています。

特に知られる句としては、

 

"雲の峰 幾つ崩れて 月の山"  奥の細道(松尾芭蕉)

 

ではないでしょうか。

月の山とは出羽三山のひとつ、現在の山形県にある月山のこと。

月山は標高1981mと2000mにも満たないですが

豪雪地帯の山のため、

冬に降り積もった深い雪が夏になっても溶け残り、

ときに雪が山肌を覆う山だそう。

 

 

この句は元禄2年6月6日に詠まれたとされています。

現在の暦に直せば7月22日ですから、

平年なら梅雨明けの厳しい夏の日。

 

大暑の頃になっても、うっすら雪を残す白い月山と、

その山の上にそびえる、さらに白い雲の山。

陽光に輝く夏雲の姿を眺めて、この句を詠んだのかもしれません。

 

 

 

 

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奥野 崇

category : 季節手帖 | posted at 2020.7.25

小暑

南楽園からは、古代蓮の開花の知らせが聞こえてきました。

二十四節気では小暑の頃。

「大暑来れる前なればなり」 暦便覧

本格的な暑さが到来する前段階、ということ。

小暑を迎えると、衣食住のあらゆるものが夏向きのものに変わっていきます。

 

 

また、七十二候で小暑の初候はその名もすばり

「温風至」(あつかぜいたる)

"温風"と聞くと、暖房器具などのそれを思い浮かべてしまいますが、

本来の"温風"とは、あたたかい南風のことを指しており、夏の季語にもなっています。

 

その"温風"も、梅雨の時期によって呼び方が変わります。

梅雨の初め頃は、黒南風(くろはえ)

ちょうど中頃は、荒南風(あらはえ)

終盤になる頃は、白南風(しろはえ)

各時期の雲の様子を色で表現したもので、漁師さん発祥の言葉ともいわれています。

 

 

梅雨の終盤は、特に豪雨になりやすい頃。

現在も九州を中心に予断を許さない状況です。

どうぞ皆様、最大限の警戒を。

 

 

 

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奥野 崇

category : 季節手帖 | posted at 2020.7.7

紫陽花

この季節の代名詞ともいえる、アジサイ。

私たちの事務所でも、小さくて控えめなヤマアジサイが満開をむかえています。

個人的には、ガクアジサイや、ヤマアジサイの可憐な姿に心惹かれます。

ガクアジサイは多くのアジサイの原種のもので、

日本の海岸付近に自生している、別名ハマアジサイ。

一方、ヤマアジサイは山中の沢付近によくみられ、別名サワアジサイとも。

いずれも山野の中ひっそりと咲くその姿に、魅力を感じずにはいられません。

 

アジサイの語源は、はっきりしていないようですが、

歴史を振り返って、その表記の多さに驚かされます。

古くは万葉集で詠まれた「味狭藍」「安治佐為」。

その後も「阿豆佐為」「集真藍」「安知佐井」「七変化」「八仙花」「四葩」などなど。

 

現在、最もよく使われる「紫陽花」という表記は、

平安時代に学者道順が、なんと他の花の漢名と間違えてあててしまったものなんだとか。。。

 

 

どんよりした梅雨曇と、しとしと降る雨の日々。

モノトーンの景色の中、その一隅を色彩豊かに明るくしてくれる姿は、

「紫陽花」という名がぴったり、と改めて思うのは私だけでしょうか。

 

 

 

keep smiling!

奥野 崇

category : 季節手帖 | posted at 2020.6.18

拝み虫

二十四節気での芒種の初候、

6月5日から9日頃を、蟷螂(かまきり)が生まれる時期として

蟷螂生(かまきりしょうず)と呼ばれます。

自然の中へ、と足を延ばした週末。

ふと木製ベンチの上に

黒い小さな、ちょうど蟻のような生き物を見つけました。

よく見るとそれは、

成虫と同じ形をした小さな小さな子蟷螂。

 

 

蟷螂(かまきり)といえば、

無謀にも強者へ立ち向かっていくたとえとして

「蟷螂(とうろう)の斧」ということわざがあるほど、日本ではポピュラーな存在。

 

一方で、鎌で獲物を狙う特徴的な姿が、

拝んでいるようにみえるので「拝み虫」という異名を持ちます。

ヨーロッパでもやはり、

その姿に祈りを連想したようで「祈り虫」とも「預言者」とも呼ばれるそう。

おもしろいですね。

 

 

子蟷螂はどうかといえば、、、

エイエイ、としっかりかわいらしく

拝んでいましたとも。

 

 

keep smiling!

奥野 崇

 

category : 季節手帖 | posted at 2020.6.8
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