喫茶穀雨

物が溢れかえる現代。
 
物や情報の量やその早さ、効率の良し悪しや最新であることが、必ずしも心地よさをもたらすとは限らない、と多くの人が感じはじめているのではないでしょうか。
 
また日々の暮らしへの眼差しや、身の回りの道具の選び方、加えて働くということの捉え方や、マインドフルネスを大切にするなど、ライフスタイルへの視座や考えも、これまでとは少し違ったものにシフトしてきたように思います。
 
ここは人の営為と自然が調和をなす、里山地域。
「今ここで生きる、私たちの想う”いい”を実践・表現する場所をつくりたい。」
 
住まいの空間づくりに関わってきた私たちが、暮らすように働くをテーマに、築35年の民家を一年かけてフルリノベーション。目の前にある自然や、流れ行く季節を慈しむように。月に一度だけ開店する小さな喫茶として、2023年4月(穀雨の頃)に扉を開けました。

喫茶 穀雨と名付けられたその場所は、店主である奥野 崇[建築家・茶司]の美意識で満たされています。これまで世界各地で収集してきた小物や器、家具から古物はもちろん、季節や空間に馴染む音景の選定まで、そこにあるものは彼の審美眼によって調律されています。
 
移り行く季節のグラデーション、ゆたかに芽吹く樹々や草花、刻々とうつろう光と陰。幾星霜繰り返されてきたであろう、儚くも美しい森羅万象の一片を、茶や菓子を通じて共有したい。それは、時の移ろいを味わうようなもの、ともいえるかもしれません。
 
空間や庭は常に手が加えられており、現在進行形で改変され続けています。つくることのすぐそばにいたい、と自らの手を動かしながら木・金属・石・ガラス・焼物・植栽などの職人や作家との協働は今も続いています。

1、つくるも、つかうも。

人口減少時代の今。それでもたくさんの新築住宅が次々につくり続けられています。一方で、前世代によってつくられた住宅の多くは引き継がれず、全体の8軒に1軒は空き家という驚くべき状況です。
 
たくさん作っては壊す「フロー型社会」から、良いものをながく使う「ストック型社会」へのシフトチェンジ。良質な住宅は、個人資産であると同時に社会資産でもあります。それは子世代への住み継ぎに留まらず、オーナーチェンジして紡いでいくことも含まれるからです。家を起点とした、世代や家族の枠を越えたつながり、素敵なことだと思います。
 
新築でつくる場合には、しっかりと丁寧につくりこむこと。既存ストック(中古住宅など)を活用する場合は適切なリノベーションをして、建物をロングライフ化していくこと。(耐震や断熱といった性能面は、改修・補強の設計・施工方法が整備されてきたので安心です)
 
私たちは、既存ストックを活用したリノベーションも今後当たり前の選択肢としていきたいと考えています。

2、いま、私たちにできることを

住まいづくりに関わる私たちが見つめるべきことは、家はゴミにもなる、という事実です。
 
新築する場合でも、中古住宅をリノベする場合でも、建物をロングライフ化していくことは、資源やエネルギーの使う量を少なくすることにも繋がります。また、建物の性能を向上させ日々の消費エネルギーを抑えることも大切です。つくるときも、つくったあとも。地球や未来を想うことは忘れないように。
 
この場所で働くようになって、捨てにくいものは買わないようになりました。目の前からなくなったら、それは消えてしまったわけではなく、いつかどこかで誰かが、その尻拭いをすることになります。
 
建築でも、日々の暮らしでも。未来にとってちょっといいことを増やしませんか。

3、拡がる住まいの在り方

フィンランドを訪ねた時に聞いたお話しです。
「多くの家族が、平日は都市部の家で暮らし、週末には自然の中にある小屋で家族とゆっくり過ごすの。だから金曜の夜と月曜の朝は渋滞なのよ。」
 
車で20分も走れば山も海もある。駅近が評価される大都市圏とはずいぶん異なる、コンパクトで、車の所有率が高く、気軽にショートトリップができる街。
 
テクノロジーを活用すれば、もっと気軽にセカンドハウスをシェアすることも可能かもしれませんし、良質な住宅のストックが増えれば、ライフステージにあわせて住み替えていく、ということもあり得るかもしれません。(この建物はスタッフや友人家族で週末住宅としてもシェアしています)
 
新築や所有という枠を越えれば、住まいの在り方はもっと拡がっていくと考えています。

4、風景と共に

里山風景に馴染む庭に整える。
 
この地域に自生する山野草を多く使用しながら、約100種の樹木や植物と敷地内にもともとあった水路を再生して景色を整えました。庭とは、単に自然の模倣ではなく、人の営みと共にあるものだと思います。また、地上に見えるものだけをデザインするのではなく、土中環境も健全化を図る仕掛けも込めました。
 
建物も庭も、目に見えるものだけがカッコいいなんて、必要ないと思っていますから。

5、人と地域をつなぐ場所に

この場所は、喫茶としての用途だけでなく、開かれたギャラリースペースとしても使われます。それは美術品を展示するようなスペースとしてではなく、この地域で育まれるものを表現する場所にしたい、と考えています。あたりで採れる豊かな農作物の紹介やワークショップ、体験ツアーに加えて、民泊や週末住宅のレンタルなど。
 
さらに建物の前が遍路道という立地。国内にとどまらず、海外からの歩き遍路さんも見かけるようになってきました。お接待に、休憩所に、善根宿に。あらゆる境界を越えて、この場所をきっかけに多くの人々がつながっていく、、、などと夢は拡がっていきます。

6、手仕事とリノベーション

建築がまだ地場産業だった頃。古い建物は、建築部品が工業化される前でいわゆる既製品が使われていません。リノベーションする際には、個別の状況によって臨機応変な対応が必要です。これまで私たちは新築においても、手仕事による空間づくりにこだわってきました。その取り組みとリノベーションとの親和性はとても高く、枠にはまらない空間づくりが可能です。
 
今回のリノベーションは、中古住宅を利活用するひとつのモデルケースとなればと思っています。設計の際には耐震・断熱の数値化を行い、新築の建物をもこえる性能を担保したうえで、できる限りゴミがでないよう工事を行いました。

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791-1131 愛媛県松山市窪野町104-1 / TEL. 089-968-2887

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